Locker.aiは、LLM・VLMとスマートロッカーを組み合わせ、遺失物の登録から検索、本人確認、返還までを支援するチーム開発です。2024年3月の情報処理学会 インタラクション2024で研究発表とデモを行った後も開発を続け、2025年5月の第6回全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト2025(以下、DCON2025)本選へ進みました。
情報処理学会 インタラクション2024時点の課題
遺失物の管理では、拾得物の特徴を人が記録し、受け取りを希望する人の説明と照合します。管理者の作業量だけでなく、本人であるかの判断が主観に依存しやすいことが出発点でした。
情報処理学会 インタラクション2024の論文では、Next.jsのウェブサイト、NestJSのサーバー、Supabaseの認証・ストレージ・データベース、GraphQLによる通信、Raspberry PiやMbedを用いたスマートロッカーという構成を報告しています。VLMによる特徴記述は人手との差が小さい事例が多かった一方、劣る事例もあり、追加の評価が必要でした。
つまり、発表できるプロトタイプができた時点でも、検索の精度、本人確認の安全性、Webから物理ロッカーまでの操作、利用者へ見せる情報の範囲は継続課題でした。
公開コミットに残る担当範囲
GitHubでReoHakaseをauthorとして抽出できる、DCON本選までの公開コミットには次の変更が残っています。
- 遺失物検索を会話として進めるチャットUIとツール呼び出しの追加
- チャット用APIエンドポイントの実装
- 類似する遺失物の確率を取得して返す問い合わせ処理
- モデル応答中の入力と、ツール実行失敗時のフィードバック改善
- QRコード認証ダイアログと認証済み状態の導線
- 受け取り対象となるロッカーの場所表示
- API・Webを横断する国際化とGraphQL mutationの更新
- 本選前のデータベースmigration修正
この一覧は公開コミットから確認できる範囲であり、Locker.ai全体への排他的な貢献を示すものではありません。スマートロッカーのハードウェア、機械学習モデル、事業計画、発表資料を含むプロジェクト全体は、メンバーで分担したチーム成果です。
設計上の判断
自然言語検索と候補照合を接続する
遺失物の説明には、色、形、材質、傷、内容物など複数の特徴があります。利用者が最初からすべてを入力できるとは限らないため、一回の検索フォームではなく、質問と回答を重ねるチャットとして実装しました。
画面上の会話だけで完結させず、検索ツールが類似候補と確率を返し、その結果を次の応答に使えるようにしました。AIの文章生成とデータベース検索を同一視せず、どの処理が候補を取得したかをツール境界で分けています。
「見つかった」と「受け取れる」を分ける
似た候補が見つかっても、すぐにロッカーを開ける設計にはできません。QRコードによる認証、ユーザーの認証状態、ロッカーの場所、受け取り操作を別の段階として画面へ反映しました。
この分離は、誤検索がそのまま誤返還になることを避けるための土台です。ただし、本人確認の十分性や、候補情報をどこまで開示するかは、Web UIだけで解決できる問題ではありません。運用と追加検証を含む残課題です。
本選直前でも基盤変更を追跡できるようにする
DCON向けには表示だけでなく、国際化、GraphQL、データベースmigrationも更新しました。利用者に見える文言とAPIの型、保存されるデータがずれないよう、変更を同じモノレポで管理しました。公開リポジトリには300件を超えるチームのコミット履歴があり、発表後も段階的に更新した過程を確認できます。
本選での結果
DCON2025は2025年5月9日・10日に本選が開催されました。DCON公式発表による95チームの応募から、茨城工業高等専門学校「明日のDCON楽しみだね」のLocker.aiは本選5位、企業評価額5,000万円となりました。
あわせて、トピー工業賞、日立産業制御ソリューションズ賞、QUICK賞を受賞しました。順位と3つの企業賞は、Web実装だけではなく、ハードウェア、AI、検証、事業提案、プレゼンテーションを統合したチーム全体への結果です。
得たものと本選後に残る論点
情報処理学会 インタラクション2024の研究プロトタイプからDCON2025本選までの公開履歴には、検索チャット、API、認証、ロッカー案内、国際化、データベースmigrationを段階的に追加した過程が残りました。モデル単体の評価だけでなく、利用者が検索を始めてから認証を経て受け取るまでを、ウェブ、API、データ、物理ロッカーをまたいで接続することが開発対象でした。
コンテストの結果は、遺失物の誤返還リスクが解消したことを意味しません。VLMが見落とす特徴、似た物品の取り違え、本人しか知らない情報の扱い、管理者が介入すべき条件を引き続き検証する必要があります。
次の実装では、モデルの正解率だけでなく、誤った候補を提示したときに返還を止められるか、候補情報を必要以上に漏らさないか、AIや通信が失敗したときに安全な状態へ戻れるかを受け入れ条件に含める必要があります。
